大判例

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東京高等裁判所 昭和48年(う)1934号 判決

被告人 石井久雄

〔抄 録〕

原審では、当初の公訴事実は、「進路前方道路を右から左に横断中の吉原昭夫」とあったのを、裁判所の示唆により、検察官は、「進路前方の左側部分を歩行中の吉原昭夫」と訴因を変更したのであるが、この訴因の変更以上に発見がおくれたということと、発見しなかったということは、被告人にとっては重大な問題である。それは前方注視義務違反の程度において、発見がおくれたというのと、発見できなかったというのでは、相当の差があるからである。したがって、これは被告人の「防禦に実質的不利益を生ずるおそれがある場合」というべきであるから、訴因を明確にして審理を尽すべきであるのに、訴因変更の手続をとらないで判決をした原判決には、訴訟手続に法令の違反があるという主張である。

よって案ずるに、記録によれば、本件起訴状(原審第五回公判において、変更された訴因による。)に訴因として明示された被告人の懈怠した過失(不注意)の態様と原判決が判示第一の事実で認定した被告人の守らなかった過失(不注意)の態様とは、それぞれ論旨指摘のとおりであることが認められるのである。しかしながら、本件における起訴状(前記変更された訴因に従う。)に記載された被告人の懈怠した過失の態様と原判決の認定した被告人の守らなかった過失の態様とを対比考察するに、いずれも同一の自動車を運転して同一道路上における同一の区間を進行するに際し、自動車運転者として守るべき前方注視義務を怠った態様に関するものであって、その差異はさほど大きくはなく、公訴事実の同一性を害しないことはもちろんのことであり、記録にあらわれた原審における審理の経過にてらしても、右両者の相異が被告人の防禦に実質的な不利益を及ぼすものとは、とうてい考えられないのであるから、原審が訴因変更の手続を経ることなく、前示のような被告人の守るべき注意義務を怠った過失の態様を起訴状と異って認定したことは適法であるといわなければならない。したがって、原判決には所論のような訴訟手続の法令違反はないから、論旨は理由がない。

(真野 吉川 竹田)

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